世界自然遺産エリア「金作原」で亜熱帯の森をお散歩

2018/12/19

ペン

勝 朝子

奄美大島の自然・金作原

太古の昔に、ユーラシア大陸から切り離されて大陸島となった奄美大島。

大陸や他の地域から隔離された歴史が長いため、日本の本土やユーラシア大陸の大部分ではすでに絶滅した生物なども島では生き残り、独自の変化を遂げ、奄美の固有種となってたくさん残っています。

美しい海のイメージが強い奄美大島ですが、実は平地は少なくとても山の多い島。その山には人の手が入らない亜熱帯の原生林とそこに住む固有種の動植物が多く残されています。

そんな奄美大島の豊かな自然に入り、実感できる場所としておすすめなのが、奄美市名瀬にある亜熱帯の森「金作原(きんさくばる)」。自然を体感できる観光地として人気の場所ですが、実はまだ行ったことがなかった私…今回、機会に恵まれてはじめて足を踏み入れました!

金作原 : モコモコとしたブロッコリーの森の中へ

奄美の名瀬市街地から車で約30分。

車から見える景色は、もりもりとした木に隙間なく覆われた山々。
この様子を比喩して、奄美の森は「ブロッコリーの森」とも呼ばれているそうです。
このびっしりと木に覆われた森の中に、金作原原生林があります。

奄美大島の山・森

途中から舗装していない山道に入ります。ガタガタと揺れて、ちょっとアドベンチャーツアー気分。

しばらく行くと、山道にゲートがあります。
金作原の保護のために、車の乗り入れを制限しているそうです。

ここで車を降りて、歩いて森を探索します。

奄美大島の自然・金作原

金作原は希少な動植物を保護すること、また的確なガイダンスによって奄美大島の自然のすばらしさをよく理解していほしい!という思いから、ガイド随行での入林を推奨しています。

奄美大島には「奄美大島エコツアーガイド連絡協議会」という組織があり、きちんとした知識と経験を持ったガイドを認定する「エコツアーガイド制度」を行っているので、認定ガイドにお願いすることをおすすめします。

今回ガイドをしてくれたのは、認定エコツアーガイドである、観光ネットワーク奄美の西條 和久(さいじょう かずひさ)さんです。ガイド歴20年の大ベテラン。

山のなかに響く鳥の鳴き声から、貴重な鳥の生態を教えてくれたり、時期によってみることのできない動物や花なども、iPadで見せて説明して下さいます。

金作原認定ツアーガイド:西條和久さん

西條 和久(さいじょう かずひさ)さん

雨が多い奄美の恵み

朝から小雨が降っていたこの日。金作原の道も草木も、雨粒ををまとってしっとりと迎えてくれました。
この金作原に降った雨は、山の林道が分水嶺となっていて、ここから川となってマングローブの汽水域まで流れていきます。

「奄美といえば亜熱帯。世界地図で見ると、亜熱帯地方というのは、実はほとんど砂漠なんです。
ところが奄美大島の年間降水量はなんと3000ミリを超えます。これは世界的にみても非常に珍しい土地だということがわかります。」(西條さん)

奄美の金作原クワズイモの葉とシダ類

金作原のクワズイモの葉とシダ類

と、突然、

「ピッキョローン!」
「ん?」
「ピッキョローン!」

「あ、オオトラツグミが鳴いていますよ!」(西條さん)
奄美大島だけに生息している国の天然記念物 「オオトラツグミ」の声。

いつもは朝しか鳴かないのだそうです。
私たちは午前中のツアーだったのですが、ちょうど雨上がり。
まだ雲が厚く、薄暗いせいで、朝と同じぐらいの明るさだから鳴いたのだそうです。
姿は見えなかったのですが、声が聴けるなんてラッキー!!

金作原のツアーガイド

まるでジャングル!「着生」がいっぱい!

さて、しばらく歩くと木の途中から明らかに違う木が生えています。
木の途中から生える、パイナップルの葉のような形に広がる葉っぱ。
シダの一種、「オオタニワタリ」です。

オオタニワタリは川があって湿度が高いところの木にくっついて生長します。
そのとき、くっついている植物から栄養を吸収するのではなく、上から降ってくる雨水などを取り入れて自分で光合成をするので、「寄生」ではなく、「着生」と言うのだそうです。

このあたりは山の中でちょうど常に日陰になる場所なので、オオタニワタリがたくさん見られます。

奄美の金作原:オオタニワタリ

オオタニワタリ

そして、道の脇にかわいらしい葉を発見!
これは「カゴメラン」。籠の目のような模様が葉っぱにあります。
カゴメランは主に九州南部、南西諸島に生息する希少種だそうです。
ちょうど花が終わってしまったところのようですが、何とも綺麗な葉っぱですね。

奄美の金作原:カゴメラン

カゴメラン

奄美の固有種だけでなく、渡り鳥も宝庫

奄美にはたくさんの渡り鳥が一年を通じて渡ってきます。

奄美の森は6割をシイの木が占めているそうです。そのシイの木からどんぐりが落ちて、それが渡り鳥のえさになります。

「ピックイー!」
「ギャー!」「ギャー!」

「ギャー!というのは、何の声だと思います?奄美の固有種であるルリカケスの声ですね。色は深い青色と赤色で美しい姿をしているのですが、カラスの仲間なので、声はカラスに似ているのです。」(西條さん)

ルリカケスは渡り鳥が来ると、警戒して「ギャー!」と鳴くのだそうです。
中でもルリカケスが一番警戒するのは「サシバ」。秋になると渡ってくるタカのような猛禽類です。

「ピックイー!」という声の方がかわいく聞こえますが、サシバの声です。
なるほど、猛禽類は肉食ですから、ルリカケスも警戒するわけですね。

奄美の金作原:サシバ

猛禽類のサシバ

亜熱帯原生林の生命力

金作原の代名詞とも言える「ヒカゲヘゴ」。
ヒカゲヘゴは木性シダ。光がよく当たり、川の近くで湿度が高い場所でないと生長しないそうです。

奄美の森では、ジャングルのように密集した木々の間で、光を求めてぐにゃぐにゃと方向を変えながら生長するので、幹が曲がっているヒカゲヘゴもたくさんあります。

「今年の強烈な台風で倒れてしまったものもありますが、倒れたもののおかげで残ったヒカゲヘゴが光をいっぱいに浴びて、あっという間に生長しますよ。」(西條さん)

なんと20年で10mぐらい生長するらしいですよ。これからの生長が楽しみですね。

奄美の金作原:ヒカゲヘゴ

ヒカゲヘゴの新芽は、ゼンマイのような形をしています。
このゼンマイが伸びていって、両側に開いてヒカゲヘゴの葉になるのです。
まさに亜熱帯の生命力を感じますね!

奄美の金作原:ヒカゲヘゴ

ヒカゲヘゴの芽

遊歩道から少し急な階段を降りると、そこには巨大な板のような根っこの木が。
「オキナワウラジロガシ」という木で、この特徴的な根は、まさに根が板状に張り出すので板根(ばんこん)と呼ぶそうです。

この木は樹齢150年以上。高さ22m。胸の高さでの直径が1mもあります。
奄美大島でも最大級の大木だそうですよ。

奄美の金作原:オキナワウラジロガシ

オキナワウラジロガシ

エコツアーガイドさんの説明を聞きながら金作原を歩くと、奄美の森がなぜ「ガラパゴス」と呼ばれるのかがよくわかります。

金作原の森は、非常に小さな植物だったり、植物の生態が絡まり合っての植生だったり、遠くから聞こえる鳥の声だったり、気づくべきポイントがわかりづらいことが多くあります。多種多様な生命が息づき、共存する奄美の自然の豊かさを本当に理解するには、やはりエコツアーガイドさんの存在が欠かせないと実感しました。

同じ山でも場所によって、日当たり、湿度、水の量が違い、植生が違います。

もちろん、訪れる季節によっても異なります。

ひとときとして同じではない自然の移り変わりを楽しめる場所、金作原原生林。来島の際はエコツアーガイドさんにお願いして、ぜひ訪れてみてください。

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この記事を書いたフォトライター

勝 朝子

勝 朝子

Webクリエイター、ITサポーター、奄美大島紬のポケットチーフ「フィックスポン奄美」代表。東京出身。縁あって奄美大島出身の夫と結婚。以来毎年奄美大島を訪れ、2012年奄美大島に移住。奄美の自然、人、文化、食べ物が大好きで、島の隅々まで日々探検中!

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